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8月, 2022の投稿を表示しています

『稀書探訪』の旅(日比谷図書文化館) A trip to explore rare books (Hibiya Library & Museum)

  フランス文学者で、多くのパリに関する本の作者でも知られる鹿島茂の膨大な古書コレクションを展示した展覧会。 それほど大きくはない展示スペースの中に、所狭しと稀書が並べられた様子は、それだけで実に壮観だった。 本の種類は多岐にわたる。『タブロードパリ』などの19世紀のパリについての地誌や、1900年に行われたパリ万博についての写真集、当時のカリカチュール入りの風刺新聞、バルビエらの美しいイラストが入った当時のファッション雑誌、などなど。 鹿島氏によれば、そうした古書を収集するために、山のような依頼をこなして文章を書き続けてきたという。 これまで、鹿島氏のパリに関する様々な書籍を楽しんできた身からすると、その背景にはこれらの膨大なコレクションの存在があったということに、何とも複雑な気持ちを抱いてしまった。 An exhibition displaying the vast collection of old books of Shigeru Kashima, a scholar of French literature and author of many books about Paris. The sight of rare books crammed into rows in a not-so-large exhibition space was truly a spectacle in itself. There are many different types of books. Topography of Paris in the 19th century, such as "Tablade Paris", photo collections about the 1900 Paris World Exposition, satirical newspapers with caricatures of the time, and fashion magazines of the time with beautiful illustrations by Barbier and others. ,etc. According to Mr. Kashima, in order to collect such ancient books, he

視覚トリップ展(ワタリウム美術館) I Love Art 16 - Vision (Watari Museum of Contemporary Art)

  ワタリウムを訪れたのは、本当に久しぶりだった。新型コロナの感染が広まって以降、初めてだったかもしれない。 I Love Art というコレクション展シリーズが行われていた。15人のアーティストのドローイング作品を中心にした展示が行われていた。 ナムジュン・パイク、ヨーゼフ・ボイス、オラファー・エリアソン、アンディ・ウォーホル、キース・ヘリング、クリスト、マルセル・ブロータス、河原温らはすでにこの美術館ではお馴染みだ。 一方で、青木綾子、ジュリアン・シュナーベル、有馬かおるなど、これまで知らなかったアーティストの作品も目にすることができた。 ワタリウム美術館の前身であるギャラリーがオープンしたのは、1972年であったという。 その50年にわたる収集の軌跡を辿るような、そんな趣のある内容の展覧会だった。 It's been a long time since I last visited Watari-um. It may have been the first time since the spread of the new coronavirus infection. A collection exhibition series called I Love Art was being held. The exhibition was centered on drawings by 15 artists. Nam June Paik, Joseph Beuys, Olafur Eliasson, Andy Warhol, Keith Haring, Christo, Marcel Broodthaers and On Kawara are already familiar faces at the museum. On the other hand, I was able to see the works of artists I had never seen before, such as Ayako Aoki, Julian Schnabel, and Kaoru Arima. The gallery, the predecessor of the Watari Museum of Art, opened in 1972. It was an exhi

日本美術をひも解く(東京芸術大学美術館) Themes in Japanese Art from the Imperial Collection (University Art Museum)

  皇居の中にある三の丸尚蔵館は、小さな建物ながら、皇室が所有する名品が展示されるので、度々訪れたことがあった。 その建物が休館中のため、これまで様々な巡回展が行われてきた。その中でもこの東京芸術大学美術館で行われたこの展覧会は最も豪華な内容のものだろう。 展示替えがあるので、全てを一堂に目にすることはできないが、伊藤若冲の動植綵絵、狩野永徳の唐獅子図屏風、蒙古襲来絵詞、春日権現験記絵などが展示一覧に並んでいる。 そうした国宝の作品は勿論、見応えがあったが、他に印象に残った展示品を2つ。 長沢蘆雪の綿花猫図。猫の毛の一本一本が丹念に描かれていてそのフワフワ感が見事に表現されている。蘆雪の絵師としての凄みが感じられた。 五姓田義松のナイアガラ景図。五姓田がアメリカを訪れた時に見たナイアガラスの風景が、横長のキャンバスに完璧な洋画の技法で描かれていた。 これらの皇室の美術品の管理は、宮内庁から文化庁に移管されて、三の丸尚蔵館に代わる新たな展示施設が作られるという。そちらの新施設にも期待したい。 The Sannomaru Shozokan, which is located in the Imperial Palace, is a small building, but it exhibits masterpieces owned by the imperial family, so I have visited it many times. Since the building is closed, various traveling exhibitions have been held. Among them, this exhibition held at the Tokyo University of the Arts Museum is probably the most gorgeous. Due to changes in the exhibition, it is not possible to see all of them in one place, but the exhibition list includes Ito Jakuchu's animal paintings, Kano Eitoku's folding screen

ルートヴィヒ美術館展(国立新美術館) Museum Ludwig Cologne (National Art Center, Tokyo)

  ドイツ、ケルンにあるルードヴィヒ美術館の収蔵品を紹介する展覧会。 ピカソやウォーホル、リキテンシュタインなどのお馴染みのアーティストの作品も良かったが、見所はドイツ・モダニズムとロシア・アヴァンギャルドの作品だろう。 ドイツ・モダニズムからは、マックス・ペヒシュタイン、アレクセイ・フォン・ヤウレンスキー、エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー、カール・シュミット=ロットルフ、ジョージ・グロス、オットー・ディクス、マックス・ベックマンなどの代表的なアーティストたちの作品が並んだ。 エルンスト・バルラハとケーテ・コルヴィッツの2つの彫刻作品も良かった。 ロシア・アヴァンギャルドからは、ミハイル・ラリオーノフ、ナターリヤ・ゴンチャローワ、カジミール・マレーヴィチ、アレクサンドル・ロトチェンコらの作品に存在感があった、 ケルンと言えば、ケルン・ダダを主導したマックス・エルンストの名前が思い浮かぶ。しかしそのエルンストの作品はわずか1点のみの展示で、少し寂しかった。 それら以外にも、ヨーゼフ・ボイスとブランキー・パレルモの姉弟コンビの作品も展示されていたが、なぜか弟子のパレルモは60年台のコーナー、師匠のボイスが70年台のコーナーに展示されていた。 日本では印象派やアメリカのモダン・アートのアーティストたちはとても人気があるが、この展覧会を一つの契機に、ドイツのアーティストたちに関心が高まることを期待したい。 An exhibition introducing the collection of the Ludwig Museum in Cologne, Itz. Works by well-known artists such as Picasso, Warhol, and Lichtenstein were also good, but the highlights were the works of German modernism and Russian avant-garde. German Modernism includes works by leading artists such as Max Pechstein, Alexei von Jawlensky, Ernst Ludwig Kirchner, Karl Schmidt-Rottluff, Geo

ゲルハルト・リヒター展(東京国立近代美術館) Gerhard Richter (National Museum of Modern Art, Tokyo)

  日本では19年ぶり、東京では初めとなるリヒター展だという。 19年前の展覧会とは、千葉の佐倉市にある川村美術館で開催されたもの。 行きたかった展覧会だったが、行くことができず、現在に至るまで行けなかったことを最も後悔している展覧会の一つになっている。 その後、何点かの作品は、ミュンヘンのレンバッハハウス美術館や、ニューヨークのMOMA、六本木のワコウ・ワークス・オブ・アートなどで目にしてきた。 堂島リバービエンナーレ2019で目にしたアトラスも記憶に新しい。 今回の展覧会では、リヒターが手元に置いてきた作品を中心にした展示だという。 It will be the first Richter exhibition in Japan in 19 years and the first in Tokyo. The exhibition 19 years ago was held at the Kawamura Museum of Art in Sakura City, Chiba. It was an exhibition that I wanted to go to, but I couldn't go. Since then, I have seen some of his works at the Lenbachhaus Museum in Munich, MOMA in New York, and the Wako Works of Art in Roppongi. The Atlas I saw at the Dojima River Biennale 2019 is still fresh in my memory. In this exhibition, it is said that the exhibition will focus on the works that Richter has left at hand. フォト・ペインティングス。 写真を元に絵を描くことは、一見すると無駄なことのように思える。 しかしそもそもが、絵を描くとはどんなことだろう。何を描くことが絵を描くということなのだろう。 描くという行為自体は、対象がなんであろうが、何の変わりもない。 Photo paintings. At first glance, drawi

小松美羽展 岡本太郎に挑む―霊性とマンダラ(川崎市立岡本太郎美術館) Miwa Komatsu, Challenge Taro Okamoto - Spirituality and Mandala (Taro Okamoto Museum of Art)

  川崎にある岡本太郎美術館で行われた、小松美羽の展覧会。 小松美羽は、1984年に長野県で生まれ、幼い頃からスピリチュアルな感覚を持っていたようで、霊性が多分に感じられる作品や、高野山や東寺に奉納する宗教的な作品などを描いている。 副題に”岡本太郎に挑む”とあるが、小松美羽と岡本太郎の作品を並べた展示もあった。 岡本太郎も沖縄や東北の不思議な民俗や宗教などに興味を持っていたが、岡本の興味はフランスに留学してモースに学んだ学問的な文化人類学に基づくもので、小松美羽の個人的な体験に基づいたスピリチュアルな感覚とは少し違うのではないか。 小松の作品は、原色や金色を使ったカラフルでダイナミックな構成の作品が多い。 小松は幼い頃から自分の近くに山犬(オオカミ)の存在を感じていたようで、その山犬は小松の作品に頻繁に登場する。 日々、瞑想や祈りを捧げているという小松だが、描かれている山犬はややユーモラスな印象受け、現代のカワイイ文化の影響を受けているのかもしれない。 それ以外のテーマの作品にも、描かれている深遠なテーマにも関わらず、いい意味でなのかもしれないがある種の軽みを感じてしまった。 An exhibition of Miwa Komatsu at the Taro Okamoto Museum in Kawasaki. Miwa Komatsu was born in Nagano Prefecture in 1984 and seems to have had a spiritual sense since she was young. Although the subtitle is "challenging Taro Okamoto," there was also an exhibition that displayed the works of Miwa Komatsu and Taro Okamoto. Taro Okamoto was also interested in the mysterious folk customs and religions of Okinawa and Tohoku, but Okamoto's interest was based on the academic cultural anthrop

大航海時代へ(古代オリエント博物館) To the Age of Discovery (Ancient Orient Museum)

  この展覧会は、2020年10月に天理大学で行われた展覧会を、規模を縮小して古代オリエント美術館で開催したもの。 第1章では、まずはシルクロードの時代のイランのガラス器や唐三彩などを展示。続いて、マルコポーロが旅をした時代のイランの色鮮やかな陶器が展示されていた。 第2章からは、この展覧会のテーマである大航海時代についての展示。 マルコ・ポーロの『東方見聞録』や、その時代に出版された様々な地図や世界の地理の記録など。 現在の世界地図はその内容が固定されていて変わることはまずないが、当時は新しい島や地域が発見されるたびにその内容が変わっていて、まさしく発見の時代であったことがよくわかる。 天理大学で行われた展覧会では、その後、世界の様々な地域の民俗的な品々が展示されたようだが、古代オリエント美術館ではスペースの制約か、日本にフォーカスした展示が行われていた。 天正遣欧少年使節と、慶長遣欧使節についての記録が展示されていて、いずれもとても興味のあるテーマだったので、興味深く見ることができた。 現在のグローバリゼーションの時代の起点になったであろう、大航海時代について、色々な品々から多角的に知ることができて、文字通り歴史のロマンに溢れた内容の展覧会だった。 This exhibition was held at Tenri University in October 2020 at a reduced scale and held at the Ancient Orient Museum. In Chapter 1, first displayed Iranian glassware and Tang Sansai from the Silk Road era. Then there was the colorful Iranian pottery of the time when Marco Polo traveled. From Chapter 2 onwards, there is an exhibition about the Age of Discovery, which is the theme of this exhibition. Marco Polo's Travels of the East, various maps and records

東北へのまなざし1930-1945(東京ステーションギャラリー) Eyes on TOHOKU 1930-1945 (Tokyo Station Gallery)

  1930年から1945年にかけて、年号で言えば昭和5年から20年にかけて、東北へそのまなざしを向けた人々に焦点を当てた展覧会。 ブルーノ・タウト、柳宗悦、シャルロット・ペリアンらの東北との関係については、別の機会で知っていたので、それらを思い出すと言った風で会場を巡った。 考現学で知られる今和次郎は東北の青森生まれで、その青森を中心に弟の純三とともに東北を広く”考現学”していたことはこの展覧会で初めて知った。 また、シュルレアリスムの画家だった吉井忠が、福沢一郎と瀧口修造が警察に逮捕されたことをきっかけに故郷に故郷の福島に戻り、東北地方の人々や風景を描き続けた作品も、この展覧会で初めて目にした。 中でも、東北地方の様々なこけしが、かつての東京駅の赤煉瓦の古い壁の前にまとめて展示されていたコーナーが衝撃的だった。 東北といえば、縄文土器、三内丸山遺跡、アイヌ、蝦夷、奥州藤原氏、奥の細道、宮沢賢治、宗像思考、東日本大震災、福島原発事故など、様々なことが思い浮かんで来る。 その中に、この展覧会のことも、入ってしまったような気がする。 From 1930 to 1945, this exhibition focuses on the people who turned their eyes to Tohoku. I had learned about the relationship with Tohoku of Bruno Taut, Soetsu Yanagi, Charlotte Perriand, etc. on another occasion, so I went around the venue, reminding myself of them. Wajiro Kon, who is known for modern studies, was born in Aomori, Tohoku, and I learned for the first time at this exhibition that he and his younger brother Junzo had been involved in "modern studies" across the Tohoku region, mainly in Aomori. In

ライアン・ガンダー展(東京オペラシティーアートギャラリー) Ryan Gander (Tokyo Opera City Art Gallery)

  昨年、新型コロナの感染が広がったために延期となったライアン・ガンダーの個展。 2017年に大阪で行われた展覧会に行ったことがあったが、それ以降、彼の名前は日本でもよく知られるようになった。 会場には、ガンダーを代表する、目がキョロキョロする”最高傑作”や、壁から覗いたネズミが何事かを呟いている”2000年のコラボレーション”などの他に、今回の展覧会のために制作された作品などが展示されていた。 ガンダーによれば、アートとは理性のコントロールを安全に失うことであり、日々の暮らしをスローダウンさせてくれるものだという。 ガンダーの作品は、いわゆる仰々しいアート作品ではなく、これは本当にアート作品?と思われたり、クスッと微笑んでしまうような、そんな印象の作品が多い。 その意味では、自らのコンセプトを実に緻密な計算と設計で作品として実現していると言えるのかもしれない。 昨年の展覧会の延期の代わりとして開催された、”ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展”も再現されていて、そちらもガンダー独自の視点が十分に感じられて、とても楽しめた。 Last year, Ryan Gander's solo exhibition was postponed due to the spread of the new corona infection. I had been to an exhibition held in Osaka in 2017, and since then his name has become well known in Japan. At the venue, in addition to Gander's representative works, such as the "masterpiece" that makes your eyes wander, and the "2000 collaboration" in which a mouse peeking through the wall mutters something, there are other works created especially for this exhibition. The works that were done wer

MOTアニュアル2022(東京都現代美術館) MOT Annual 2022 (Museum of Contemporary Art Tokyo)

今回のMOTは、”私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ”というテーマで4名のアーティストの作品が展示された。 高川和也は、自身の体験や日々の思いを映像化した作品を展示。 工藤春香は、障害者についての問題を取り上げた作品を展示。 とりわけ、1878年から2022年までの障害者に関する年表の展示が圧巻だった。 大久保ありは、過去の自分の作品をユニークな構成で展示していた。 学園祭のように特設された壁や空間に自身の作品を置いて、まるで大久保の頭の中の世界が表現されているようだった。 良知暁は、かつてアメリカで黒人を選挙から排除するために使われていた言葉をテーマにした展示。 最近も、アメリカで共和党が制する州では黒人の投票を阻止する政策が行われているニュースを耳にしていたので、とてもアクチュアルな展示内容だった。 どの展示も、比較的地味な雰囲気の展示だったが、その内容は結構過激で、様々な社会的な問題を提示、告発するものだった。 At this year's MOT, the works of four artists were exhibited under the theme of "My righteousness is someone's sorrow or hatred." Kazuya Takagawa will exhibit works that visualize his own experiences and daily thoughts. Haruka Kudo exhibited works that dealt with issues related to people with disabilities. In particular, the exhibition on the chronology of disabled people from 1878 to 2022 was a masterpiece. Ari Okubo displayed her past works in a unique composition. Putting his own works on walls and spaces specially set up like a school festival, it seemed